とある女性の顔(一部)本稿のアヤコ様とは関係がありません


下は中華圏で愛されるオシシ(旧正月に街頭で曲芸を披露する)その人形

どっちも可愛い

 部族民通信ホームページ   開設元年6月10日 投稿2021年2月28日
 
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鏡よ鏡 上 (読み物 2021年2月28日)  
   

(本稿は2021217~24日にGooblogに投稿された「抱き合い心中魔鏡クロワッサン」を校正、加筆の上、本Webサイト(tribesman.net)投稿した。文中の日付ノンブルはBlog投稿のまま残している。出稿は渡来部須磨男))

2021217日)川の急瀬に杭を打ち鏡を吊るし呪い掛け、衣通姫の顔(カンバセ)を浮き上がらせた。その影を抱いて姫と「共に」軽皇子は入水した(古事記軽皇子の段)。この逸話を部族民通信はブログとホームサイトに掲載した(本朝婚たはけ2000年)。記事に接し一方ならぬ感銘を覚えた者がK老人である。さらに老人は奇妙な経験を経る。そこで考えた、

「ブカンコロナ猖獗で散歩を自粛しているけれど、この話をきかせたい、驚くだろうな」早速報告とチャビ公(部族民犬)を引き連れ、渡来部(部族民通信)を訪れた。以下はK老人の語りを書き取った渡来部のブログである。

その朝のK老人、一人書斎。「本朝婚たはけ2…」(上中下、1月31日投稿)を読み終わり、思わずはたと膝を手で打った。「これだ~」感嘆叫びは書斎を抜け廊下に伝い響いた。書斎としたが机を置いた部屋のタダの隅っこ、廊下には声もいびきも実は筒抜け。

「なんとも哀しい物語であるのう、実の妹とはいえ育った里は別であったのだろう。それ故、初に出会ったときの美しさに感動し、以来、一時も姫を忘れられず、純情まっしぐらがひたむき一途。恋いの焦がれに身がもだえ、寝ては姫、起きても又「ヒメ~」。皇子ひたむき恋情に理解も及ぶというものだ」

「旦那さん、なにに感動してますの」

脇からかかった声は上っ調子で人のそれには聞こえない、

「お前か、朝寝から目覚めたか、この経緯その結末を知るとはお前にも必ず役に立つだろうから一席、聞かせてやろう」

「私めカガミにすら役立つとは、さぞかし徳のお高い方の

カガミとは鏡、髭の伸び具合を確認するため。書斎の柱に据え付けたのは半年の以前である。話しかけられた初っぱなこそ気分を害した。鏡ごときに声を掛けられる事態をK老人は受け入れられなかったが、白雪姫物語でも鏡は喋ると思い直し、おっつけ上っ調子の喋り口に慣れた。

鏡に向かい皇子の悲恋譚を、結末まで一通り語った。しかしこの鏡、感動する素振りなど一仕草にも見せずふてぶてしくも、

「ナンですが他人の顔を浮き上がらせるってやり口なんざぁ容易い芸ですわ。さらに言っておきますが鏡は覗いている本人を反射させている訳ではない。この辺りを人様は誤解しまくりです。鏡の内側には独自の虚構世界が存在している。覗く顔を幾分ねじ曲げて、時にはすっかり変えて映し返すのですわ。だから時に、見る人がいなくても浮き上がらせる、私に限ぎった能力ではないけど、鏡のオハコがそのあたりに」

100均安売り一品の分際にしては聞き慣れないコトを言い出すやつじゃ。でもそういえばレヴィストロースだって、人が見ている鏡の像は鏡面の内の影か、外側の我なる実体かの難題を神話学3巻で問いかけていたな。鏡の内外の議論はは別件として、儂としてとある一点が聞き捨てできない。汝、他人の顔を浮き上がらせるは容易と申したな」

「お察しの通り」

「皇子が愛用した鏡はその通りの芸を見せた。だから皇子は入水できたのだ」

「そのまね事は私だってできます」

「それはマコトで真実、偽りなくねつ造ですらないのか」

この問いを幾度か鏡に向けた。老人への答えは「しかるに、まさしく、ご指摘通り」肯定のみが反ってきた。

とある計画をK老人が思いついたのだ。「それなら汝」老人の声は改まった口調。その企てはなおさら特異。狙いに気づいて鏡ははっと震えた。

「思い出顔の誰かさんなんかを鏡に映してくれだって。古事記の軽皇子はですよね、そんな思い出顔と共に入水。てことはあなた、この私を道連れに浅川あたりに入水する魂胆ですね。協力できません、抱き合い心中はお断り。ブルブル」。

老人との心中だけは鏡に限らない、誰もが逃げる。震えの鏡声を聞いて老人は一笑した。

「我は見境のない若者ではない。あのような浮ついた心で何やらをしでかそうなどとは思いもしない」

悲恋だと一旦持ち上げて、舌の根も乾かぬうちに浮つきとけなす。一貫性に欠ける言葉遣いは多くの老人に特徴的であり、Kにしてもその陥穽からは抜け出られない。続く言葉が解き明かす企みとは、

「鏡面にホンワリ映して貰いたい人がいるのじゃ、そのお方の懐かし顔がそこに写っていれば安心して読書に励めるかと思ってな」

「入水でないとか、そんなら引受やしょう、その方とは」

「アヤコ様だ」

「それだけじゃ分かりませんよ、どこの国籍、何人のアヤコとか姓は田中、佐藤とか、鈴木もあるな、何とかかんとか情報を追加してくれないと」

「もちろん日本人だな、田中佐藤などは大変多い姓だが、それらと異なる」ある一つの姓が老人の口から発せられた。

「聞いたことがないなあ、オールドジェネレーションに属する方ですかね」

「左様、儂の歳に見合っているだろう。それゆえアヤコ様の現在の顔出しではない。過去形のアヤコ様だ、今を去ること50年、いや60年前にしてくれ。可憐なままに美しかったからな」

「リアルタイムでの顔なら割合と速く映し出せるんですが、それじゃ嫌だとおっしゃる。まあその訳は察しがつきますわ。下手にそのままを出したらあんた一人で身投げって悲劇になるから。儂も人の子、間違えた、鏡の子だからその特別オプションをお聞きします」

鏡は裏面に引っ込んで沈思黙考。しばらく経過してやっとこ、

「えいや、これだ」鏡が映したその若作りに老人は何とも声を出せなかった。目の前に浮き出たアヤコ様の若作り、老人は息を呑んで言葉を殺した。

抱き合い心中魔鏡クロワッサン 1の了 続く(2021217日)

 

抱き合い心中魔鏡クロワッサン 22021219日)K老人と書斎魔鏡とのやりとりを続けます。

K老人が「汝め、鏡」と指を突きつけなぞった鏡面にポカリ映し出されたその美形とは。老人のいきり立ちの弁を聞こう、

「違うぞ。アヤコ様とは月とすっぽん、太陽とおかめコウロギ、晴天とぬかるみ沼地、集中豪雨と一滴雨ほどの差があるぞ」

見れば見るほど大違い、見据えると気落ちする。欠陥再生だと老人が憤ったのだ。

最も気障りを催す差異は眉。左右の仕舞い尻が西に溶け込む三日月の下端の鋭さを彷彿させる端麗。こちらが本物。しかしここに写るその眉は一本の黒い短棒、備長炭半割の置きつけそのもの。もっと落胆してしまう美醜の乖離は瞳にあった。雪だるまではあるまいがこの眼は黒丸、炭団のはめ込み。炭団は黒い、本物の眼も黒いし真っ黒。けれど色の加減を直線で比較したって慰めにならない。炭団にはない心臓がドキリ惑う魅力が本物の黒さに潜む。フト伏し目に落とすその刹那の視線が限りなく黒いけれど、青い瞬きが幾つもの光状で放たれては煌めきながら周囲に跳ねる。

「美なのだ」

「黒いのと青いの、どっちが美なんですかい」

「両方じゃ」

さらにいろんな美醜の隔たりを老人がまくし立てた。詰まるところそれらは炭団と黒青の刹那に納まるから省いた。聞き終わって反省を籠めた鏡の言いぷりは言い訳。

「実は私め、アヤコ様なるお方を知らず、60年前のアヤコ様を再現しろとさらなる難題を突きつけられ、困ってしまった。そこで世間一般に通用する万能美人の面を出せば納得してもらえるとテキトーに手抜きしつつ再現したのですわ。バレたようでオソマツ」

「似ていないけれど美人だったらまあ許す。お前も気付いているだろうが、儂は男盛りで度量も広い壮丁だから。しかしながら、この団子鼻とタラコ口では美の端くれにもとどかない。儂の指摘が幾分かにも荒々しかったら、汝判断の瑕疵と覚えろ」

「度量とか男盛りには理解出来ないけれど全体として分かりました、作り直しまっせ。要は三日月、黒いけれど限りなく青さに輝く煌めき、団子鼻はこの際諦めて、つんとんがりでよろしいのですね」

「さらに付け足せばタラコ口が気に入らない。より上品、紅ホオズキが熟りきれる寸前みずみずしさのまだ残るピンクホオズキ、そんな雰囲気にしてくれないか」

「ようがす、それじゃあホイきた、これだ」

「ムムム

「その気になればオレって出来るんだ。令和3年版アップグレーデッドアヤコはどうだい」

「何を勘違いしているのか。面構え、部品品質、どれをとっても先ほどと少しも変わっていない」

「て言うことは」

「美人とは異なる範疇のまま戸惑っている。美的スケールでは下位グレード、手抜きバージョンだからなおさら悪い」

がくんと肩を落とした鏡、

「無理だったのか。その原因は我、生まれてこの方、磨かれ終わってが正しいのだが、美人に出会ったことがない。美人なる概念を持たず、頭にその思想も表象も抱けず、それ故、美人像の具体化が出来ない」嗚咽まじり、鏡半生の後悔節が始まった。

♪磨いた女工が5060歳。代わる代わる布をあて、キュッキュと擦るそのたびに覗きこんだ顔が中年と初老。やっとこ磨き上げたら職長さんが検品に私を覗いた。この方お歳は74歳、しっかり己の老成様が映っていると満足しすぐさま包装されたら後は目隠し闇配送。

「開眼し初に見る顔を刷り込みという。その時点で幾人かと出逢ったもいずれも美人ではなかったとか。しかし汝、嘆くのではない。生まれ様の選択にカラ失敗したと素直に反省するのだ」

100円均一の化粧用品売り場に吊るされた。たまに覗きに来る女性にアヤコ様を彷彿とさせる若作りは居なかった。幾分か老け込んでいる女性を含めても三日月、瞳の青光りは居なかった。

「ところで旦那さん、ああいった安売り場に美人は立ち寄らない、こんな法則でもあるのですかい」

「知らないな。しかしお前はこれまで、生まれでも育ちでも一度も美人とは遭遇していない。聞けば聞くほど汝の不幸に涙も垂れるぞ」

「旦那さんは美人さんによく出逢いますかね」

不利な話題になった。自身の確立については「汝の身の上から始めているのだ」とそらし

「こうすれば解決だ」気の利いた提案を思いついた。

「若いときに買い集めたブロマイドの幾葉かをしまっておる。それを美人の典型としてお前に見せてやる。その顔をじっくり見てパーツ形状やら、それらの重なり塩梅を覚えたらアヤコ様を再現できるだろう」

…..」一瞬、鏡が黙った。不同意を表すかのとんがり口から出た返事は、

「ブロマイドは写真です。2次元の再生となります。それを私に見せたところで、2次元面しか再現できませんわ。2次元から2次元に、それならコピー機のほうが性能ははるかに良い。我ら鏡族の自慢とは3次元の面表情、姿形を2次元鏡面に映し出す技能です。

旦那さんの提案は折衷に聞こえるが、それ以上でも以下でもない。しかし鏡のレゾンデートル(raison d’etre、生きる理由)を否定している。まっぴらご免」

「急に鼻息が荒くなったな、一理あるからその言い分を聞いてやる。そうもあろうかと推察はしておった、もう一つの解決策があってな、すぐにも実行できる手はずなのだ。

しかしお前、しばらく口をきくのではないぞ。相手がびっくりするから」

「同意」

老人は背筋を延ばし両の腕を高く上げポンと叩いた。

「オフデや、これオフデはおらぬか」

「ハァ~イ、旦那様」

フデ女は細君、書斎と称す一角を仕切る衝立から首一つを出した。

「何かご用で」

「そちに頼みがあって、なに簡単な事だ。すぐに済む、入って参れ」

「ハ~ィ」

鏡よ鏡 上 了

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