食するに発酵バター(ノルマンディカアン産)サクランボジャム(アルザス産)を必要とする。コーヒーは絶対にエスプレソでなければならぬ。この3点を朝に用意するは難しい。よってホテルでしか食べられないのだ。誰がその究極を食べるのか。彼の地なら「ベベ」ことBardotに決まる。日本では....?本投稿を呼んだ方に答えはすでに出されている。


鏡像化現象(ラセミズム)の解説PDF(縮小)、原図は左PDFをクリック
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鏡よ鏡 下 (読み物 2021年2月28日)  
   

(ブログ投稿2021222日)鏡の要求はサンプルとしての女の真顔、すなわち3次元の顔。美形であればうってつけなのだがK老人宅のどこにも美形は隠れていない。首実検ボランティアに白羽の矢がたったのはフデ女、細君。「オフデや、これオフデはおらぬか」「ハァ~イ、旦那様」までが前回。

「なにか御用で」

奥方の出で立ちはというと結城は普段着下ろしに筒袖、割烹着。床掃除の最中だったとは姉さん被りで察しが付く。書斎コーナーに入りこんだついでとばかり、スティック式の埃拭き取り棒を片手にして油浸モップで床を拭き回し始めた。

「これ、今は掃除する時ではない。頼み事を聞いてもらう算段なのだ、座ってもらおう」

老人は籐の丸椅子を出した。

「他でもない、話というのは鏡のことだ」

「この鏡ですかね」

フデ女はそれを指しながら不機嫌を隠さない。なぜ鏡を嫌うのか、老人は気に止めるも依頼事を進める。

「ちょいとばかりの間、覗いてくれないか」

「その程度なら厄介事ではないんですが、気乗りはしない」

「鏡を覗く、ただのそれだけ。左様な瑣事にも気乗りせんと。なにやら仔細を隠すようじゃな」

「たまさかに覗くんです。その都度気分が悪くなる。なぜって私の顔がやけに歪んで出てくる。裏に何かの仕掛けでもあるんじゃないかと疑るほどです。覗きたくはないのです、ハァーイ」

フデ女が疑る仕掛けが大アリ。床掃除が終わったモップを鏡にあてたら力いれ、腕ごと面をしごく。このゴシゴシを持ってフデ女床掃除の打ち止めとなる。しかしその先端モップはそれまでK宅床の全表面を拭き回ししていた汚れの塊。埃ごとのモップ押しつけとは、幾層にも固まった床ゴミに撫で回される事となる。鏡にはこの埃しごきが気に入らない。「鏡めもすっかりキレイになったこと」と覗いた頃にはゴシゴシが程よく終わったわけだが、鏡の不満も頂点。フデ女の面が理不尽にも歪んでしまう原因とはこの順番にあった。

「一皺の崩れるスキのないこの顔(カムバセ)、すなおに流れる鼻の筋のスンがなんとブタかオシシのふくれ鼻に劣化変態してしまう。それだけでは有りませんコト。炭団目玉タラコ口、いけシャアシャアとそれらを貼りつけるこの鏡の図太さには呆れるほど」

「フッフッフ」

フデ女の不満文句にK氏は失笑を隠せなかった。先ほどから鏡に見せつけられていた不細工顔の原因がモップゴシにあったのだ。鏡にとってはトラウマの復讐で、その顔再現が頑固に固まってしまったのだった。

「なぜ笑っているのですか、理不尽な不細工な加工顔が楽しいのですか」

たった今までその不細工を見せつけられていたとは返答出来ないK老人、

「笑っておらぬ、悲しんでいたのだ。誤解を招いた嗚咽を許せ」

魂胆は再現性の放棄に行き着く。境界が面にあるとするとその内に外とは別の結界をつくるが意図であろう。レヴィストロースは神話学3巻目「食事作法の起源」で鏡が写す像は面の内に在るのか、外に立つ像なのかの疑問を呈した(前述)。しかるにこの鏡の個体に関しては鏡面裏の、意図を持って再構築された宇宙を人が覗かせられている仕掛けだとは明瞭だ。魔鏡たる所以がそこにある。

注:鏡論議は以下、
裸の男紹介の下 (2020年3月31日投稿)
ラセミズムのPDF

フデ女にして鏡には作為があると怪しみを向けている。その時どこやらか、柱の影か壁の奥、だみ声でキンキンと響く声らしき音が、

「あの顔でジョートージョートー」二人に聞こえた。

「何かおっしゃいました、旦那様」

「何も言っておらぬ、それどころか何も聞こえてない。オッホン、無駄口するなと命じたろう」

聞こえよがしの小声は鏡に向かった。不満らしき返答「あっしの身にもなってくれ」は柱の脇から。

フデ女に向きなおりK老人は、

「この鏡には裏の細工があるかもしれぬ。というのも表側、これが鏡の前で、そのまま現実であり世界となる。人の姿形も生きるままに、姿と像そして光と影の一致、これが宇宙の再現律となる。別の言い方で真理。この鏡は宇宙の再現律を忠実に遵守していないと睨んでいる」

「妾(ワラワ)が気に入らない原因とは、此奴が宇宙への反逆者であったとか。仰せの通りと受け止めます」フデ女、鏡に睨みを「フン、反逆者」と入れて同意する。

「儂として斯様な反逆が認められたとしたら調整、いや矯正かも知れぬ。懲らしめると考えている。そこでだ願いとは今申した目的からして、律を乱す輩へ懲罰という宇宙調和への貢献だってある。ちょっとだけ覗いておくれ。2,3秒でいいのだ」

「そりゃ無理だよ。正と左右の側にそれぞれ3秒が必要だな」キンキン声がまたしても柱辺りから。

「ならば10秒か、聞いたぞ」

「フデ、覚悟は決めたな」

「旦那様、しかと」

「まず鏡を正面に捉えきっちり3秒、次に左向いてそして右に向く。側面はしっかと正面と90度の角度をとるのだぞ、そうしないと3次元再現に支障を引きずって美形にならない。それぞれの側面に3秒を、これもキチンと保つのじゃ。角度移動に秒差があるから、辛かろうが10秒の作業となる。」

宇宙律からの鏡懲罰、その大英断の切り口ならば「しっかと10秒の労苦を受けとめるわよ」。立ち上がり割烹着下の結城の襟を正してひょいと鏡を覗いた。騒動の始まりだった。

「ブッハー」大笑いフデ女が鏡にむかって吹き出した。

「やり過ぎ、見え見えだわさ。いくら何でも私って、こんな顔をしてません」

「どれどれ検分して存じよう。正面の位置も角度もそのまま、変えてはならぬぞ」

横から覗きこんだ老人が鏡に認めたその顔は、フデ女自ら吹き出した炭団とかタラコとか、すっぽん顔の集成であった。フデ女名誉にかけてその面構えはそこまでは漫画でない。

この事実よりもさらなる深刻とは「これがアヤコ」と鏡が押しつたけた、まぜこぜの部品そのものが、変わらずに継続している事態だったのだ。

「宇宙律の破り、その確信犯だな。手強いか」

(ブログ題名ノンブル抱き合い心中魔鏡クロワッサン 3 了 

 

2021222日)抱き合い心中魔鏡クロワッサン 4 (最終)(2021224日)

「襟を正して覗くのだけれど、醜い顔を返してくる。貶めた美を醜にダウングレードする。下手に出るとつけあがる、反逆者の典型ですよ」

正と両側を鏡に見させて大騒ぎの10秒が終わった。

「ご苦労であった、下がってよろしい」

「引き下がりますが鏡には、裏と表の悪徳心を持たせてはなりませぬ。世界宇宙の表象に悪質作為を加味させぬよう、日頃の躾を心がけてくださいませ」

「心得た」

引き下がりを見届け、

「どうだ、鏡、出来そうか」

「三次元の女面はしかとメモリーに入れた。眉から首筋まで各部品の規格も承った。部材と加工の手順が揃ったといえる。あとは製品の組み立てに挑む」

「あの女面を叩き台と心得よ、各部品の見てくれは何時が推敲するのじゃ。しかと頼んだぞ」

鏡面からざわめきが消えた。いかなる影もいまは表出していない。鏡がそれぞれのパラメーターをこなし、理解し、統合化している過程である。湖の隠れワンド、風も落ちた夕べの静謐、静けさと沈思の趣が漂う。来る瞬間を待ち望む老人の、逸る心だけは落ち着きを幾分か欠いた。

確信犯なのだからしっかりと把握、監督しなければの一心だった。

「小煩いと思われたら心外だ、しかし失敗は許されないぞ。今度こそ迅速に誤りを排して

なんと鏡がハタパタと揺れた。老人の催促を厭む心情がせわしなく、揺れと焦りに表出した見て取れる。

「くどいと疎まれるは残念なるも、念には念の教えもある。繰り返えそうぞ手落ちがあっては仕事は完璧言い訳なし

揺れがひとしきり続くうえ左右の振幅も大きくなった。

「これ鏡、焦るではない。儂の要求はおまえの技量を凌ぐと知る。故にお前こそが落ち着くのだ、時間を掛けてもよいが迅速に進めよ、丁寧に作業せよと申すも時に大胆な決断を忘するでない

鏡の揺れが止まった。

白濁のモヤが鏡面を覆い始めた。その奥に人型らしい女影が認められる。

「裏に何やらが見える。少しずつ近づいてくるぞ、おまえが映し出そうという顔影はアヤコ様となるか、それをも越すか」影の近づきにつれ老人声は大きくなる。

立ち姿が半身に拡大し、半身から顔面へのクローズアップが始まらんとする瞬間。手を握り歯まで食いしばり見つめる老人の小煩さが大騒ぎとなり怒鳴りまくりに亢進した。

「眉は三日月、瞳は黒く輝いて、四方に放つ光状なんかは限りなく青い真っ黒ワー」

「何が起こったので旦那様」衝立からフデ女。

「フデか、何でもないのだ。少しだけ興奮したが落ち着いた。さあ、ここが勘所だ、顔の輪郭が浮き出たぞ。まだぼんやりだ。おぉ、各部品がくっきりし始めたぞ。ずずんずずんと見えてきた」

「何が起こりました、ずずんとか」

「何でもない、独り言じゃ、あっちへお行き」

「どうだ、出したぞー」は鏡の渾身の叫び。

老人の「ワーゥオー」叫びは感銘を越して祈り。閉じた眼合せる手に込める心の震えは喜びか、あるいは。老人がゆっくと眼を開けていく。

「おい老人、アヤコ18を令和の3年、コロナの今に蘇らせたのだ。感激しろ」

拝みの合わせ手で鏡の表を凝視する老人が、何とかの一言を喉から絞り出した。

「感激は出来ぬ、前とも前の前とも変わらん」

「そんなことはない、三日月、煌めきの青全部揃っているじゃないか」

「前とはフデが覗いた反映の面、その前は炭団たらこの再現面。それらと、今お前が鏡面に見せているこの面がすっかり同じだ」

「と言うことは」

「炭棒眉に団子鼻、太陽とコオロギ

「一向に進歩がないと否定するのか」

「儂はお前に図面すべてを教えた。輪郭と部材の規格、それらの許容値まで。お前はヨーガスガッテンと請け負うが早呑み込みしているだけ。完成品は到頭出来なかった」

「くすん

「軽皇子の古事記鏡との性能の差は雲泥じゃ」

「月とすっぽん、集中豪雨に

「それは儂の台詞だ。今度という今度はお前に愛想が尽きた。こうしてやる」

手元にあったドライバーで鏡面を叩いた。

「人殺しー」

老人は人を殺していない。鏡を割った。

「がっちゃん、パリパリ」

打撃点を中心に蜘蛛の巣状のヒビが鏡面全体に入った。かろうじて破砕鏡面に崩落が発生しなかった。「ひゃー」断末魔のあきらめ、もはや鏡が答えることも話しかけることもない。そしてヒビ付きながら鏡面は残った。

ただならぬ気配を察し細君が駆けつけた、、

「なにが起きたのですか、ひと五郎氏とか聞こえました、どなたのことで」

ドライバーを持ち上げながら「オフデ、お前には良い報せであるぞ。この鏡の根性悪さを矯正するために、これで強く叩いてやったのさ」

「それが善行ですね。少しはまともになったかも、覗いてやるから。あらまぁすっかり反省しているわよ」

「割れ鏡なんて死んでいると同じだ、それでも影を写すのか」

老人が鏡を覗いた。そこにフデ女と見えない一人の女の面影が浮き出ていたのだ。

「これだー」
ヒビ割れ鏡が映した女はもはや炭団眼ではない。眉はといえばその両端仕舞い尻が西に沈む三日月のせつなさ、瞳には限りなく青の黒さの煌めき、その蠱惑の放ち様...「アヤコ様~」老人は失神した。

「これが正しい私の表情よ、うっとりするほどでしょう」横たわる老人を見下ろし、

「ひび割れ折檻に耐えきれず根性を入れ替えた鏡が、宇宙現象をそのまま反映している。だからこの鏡面に私そのものが反映されたのよ。あんたなぜ寝ているの、今が大事な宇宙時間なのよ、えいっ」足蹴をいれた。

不美人相と美形、見せかけ差は紙の一重。歪みが孕むか消え去るかだけだった。

 

追:翌朝、K老人は所用あって日野バイパスに出た。モーニングが充実しているとの評判喫茶店で帰りコーヒーを楽しむとした。サービスに指定したクロワッサンに合わせようと、深煎りコーヒーミルクなしを注文した。出来たて熱々クロワッサンにサクランボジャムをべったり塗って三日月の尻を囓った。母と子が彼の前を通る。

「坊や、サービスに何を頼む」

「クロワッサンって何」

「あのおじさんが食べている」

子供は立ち止まって、真ん前から指さしK老人を「この人クロワッサンではない、クロオッサンだ」大声で決めつけた。母と子が笑い転げた。

「ここが我慢。不美人と美形の逆相差の宇宙原則を昨日発見したのだから。部品が整合しているデファクトスタンダードは自ずと不美人に逆相し、、美人を創るとは歪みをガチン加える」K老人の自慢げな独り言であった。

鏡よ鏡 下 了 (ブログ題名抱き合い心中魔鏡クロワッサン了2021224日)

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