部族民通信ホームページ 開設元年6月10日 投稿2021年2月28日 |
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親族の基本構造4 心理からの説明の上 | |||||||||
目次 Westermarck、Havelock Ellisらの説明 エディプスコンプレックス |
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(本稿はGooBlog投稿の日付ノンブルを残しています) 本年(2021年)1月5日から「親族の基本構造」を紹介しています。導入部、自然から文化へ、遺伝劣化を防ぐための禁止と進みました(直近は2月5日)。
人は本能的にこれを忌避する、それを怖れる、この心理を抱えるゆえの故の禁止説を取り上げます(本書第二章「近親婚の問題」の第二節19~22頁)。
<Un second type d ‘explication tend a eliminer un des termes de l’antimonie entre les caracteres , naturel et social, de l’institution.(19頁)
訳:(近親婚禁止の)第二の説明は融和する事のない2の事象自然発生と社会の仕組みをとりあげ、それ自体に矛盾を見せるが、それを無視し説明に結びつけている。(注;第一の説明は「遺伝劣化説」1月22日にブログ投稿している)
<la prohibition de l’inceste n’est autre que la projection ou le reflet , sur le plan social de sentiments ou de tendances que la nature de l’homme suffit entierement a expliquer>(同)
訳:人が抱える感情あるいは性向など、いわば自然的性格の吐出が社会制度に投影、反映していると考えている。そうすれば「近親婚の禁止」は完全に説明できると主張する。
(心理を人が「自然に持つ性格」として位置づけ、その志向を社会側が制度として規制する。それが近親婚の禁止であるとする。自然としての心理=近親婚の忌避=これを社会が制度化した、との説明である)
変異型として<D’assez importantes variations peuvent etre notees entre les defenceurs de cette position , certains faisant l’horreur de l’inceste, postulee a l’origine de la prohibition , de la nature physique de l’homme , d’autres plus tot de ses tendances psychiques> (同)
この立場を取る学者のなかで有力な一群はその禁止は近親婚への怖れを挙げているし、他にもそれに傾倒する男の身体欲求(la nature physique)を理由としており、また別の立場は精神的憧憬(tendances psyques)からとも説明している。
怖れ(心理)、肉欲さらには心霊(psychiques)など自然側に属する葛藤事情の解決を目指してこの制度が発生したとしている。古い言い回し「voix du sang」血の呼び声を例と挙げるが、この言い回しは本来前向きの意を持つが、否定的に用いているとも注釈を入れる。いずれも発生は「自然」からであり、社会が制度化するとしている。
上説の代表的心理学者Westermarck、Havelock Ellis(1859~1939年英国)らへの批判にはいる。
1 姦淫に至る近親との関係はとあるきっかけ、または多くが(幼年には共に生活せず)後に巡り会い、異性として認識する状況(une connaissance supposee, ou posterieurement etablie)にのみ発生する(と彼らは規定する)。
2 日頃顔をつきあわせている近親異性には性的興奮が発生しない。(la repugnance vis-à-vis de l’inceste s’explique par le role negatif des habitudes quotidienne sur l’excitabilite erotique. 性的興奮度に対して日常の接触が否定的に働く事で近親姦淫への忌避が説明できる。19頁)
これら2の指摘が第一心理説の根幹である、レヴィストロースの批判は;
2の性状を混同している。1平素を共にする配偶者は相手への性的興奮度が減衰する、こうした事情を例証として取り上げている。<d’introduire un element de desordre dans tout systeme social社会システムのなかに不調和をもたらす事態=浮気の真因のことか、生物学者Millerの言>。近親間においても生活が一緒なのだから、それと同じ結果をもたらすとWestermarckらが説明し、よって制度に取り上げられたのだとしている。
この論理の進め方をレヴィストロースが否定した。指摘は「配偶者間おいては興奮の衰弱はあるかも知れないが、日常的に姦淫を実行していない近親間にもその傾向を当てはめるのはすり替え論理として」受け入れられないとしている。
<La moindre frequence des desirs sexuels entre proche parents – s’explique par accoutumence physique ou psychologique , ou comme une consequence des tabous qui constituent la proposition elle-meme.>(20頁)近親間での姦淫事情が少ない理由に日常的に顔をつきあわせているから、そして禁忌の戒めも影響があると説明される。
日常….だから少ない、これをして<petition de principe>と断定している。意味は「現象を関連の浅い事象で説明」すなわち「すり替え説明」であると。さらに追加されている「禁忌があるから禁止、だから少ない」は<On la postule donc en pretendant l’expliquer>(同)「説明しながらそれを公式としてしまう」であり、こちらもpetition de principeすり替えであると批判する。
その後、注目の発言が、
<Mais rien n’est plus douteux que cette pretendue repungance instinctive. Car l’inceste , bien que par la loi et les meours, existe ; il est meme beaucoup plus frequent qu’une collective de silence ne tendrait a le supposer. Expliquer l’universalite theorique de la regle par l’universite du sentiment ou de la tendence、c’est ouvrir un nouveau problemes ; car le fait pretendu universel ne l’est en aucune facon>(20頁)
訳:しかるに彼らが主張するとことの近親姦淫への本能的嫌悪については、これほど明らかな事象は他にない。なぜなら近親姦淫はそれを法で、また倫理で戒めているけれど、確実に実践されている。沈黙し、無視しようとも集団、社会が想定する以上にその頻度は多い。さらには規則の汎人類性(近親姦淫の禁忌)を感情、性向で説明する(Westermarqueら)展開は新たな問題を提起する。その汎人類性(感情)は決して証明されていないから。
訳の説明:レヴィストロースは逆説を用いた。近親姦淫への憎悪は確かだ、なぜならそれは多いから(それ故に少ないと前引用のWestermarqueらの説明とは逆)。
それが密かに、多く実行されている故に嫌悪を催す心理が生まれ、さらに制度で規制している。これを受けて「実行したいとする心理がある、だから禁止する」上記心理説とは「真逆の」心理説に入ります。続く。親族の基本構造8 心理からの説明上の了(2021年2月8日)
(2021年2月10日)親族の基本構造9心理からの説明の中
Havelock Ellisらは人はそれを毛嫌いする心理があるとした。次の世代の心理学、精神分析学者らはその正反にして、それへの願望、希求が人の心理の深層に潜む。それが思わしい状態でないから近親婚への禁忌が生まれたと考えた。<la psychanalyse decouvre un phenomene universel, non point dans la repulsion vi-a-vis des relations incesteuses , mais au contraire dans leur pursuite.>精神分析学が発見した汎人類的現象とは近親姦淫に対峙するとき身構える反発ではなく、その真逆、希求なのである。
「深層心理」そして汎人類性universaliteなどの言葉は示すけれどレヴィストロースはそれが何かの説明を加えていない。フロイトらが主張した母親願望説エディプスコンプレックスであることは明確である。さらにそれを希求するとは人性に好ましい結末をもたらさないと彼ら(心理分析)は決めつける。
エディプス(オイデプス)はギシリャ神話の人物。皆様にはこの顛末をご存じと思いますが、かいつまんで筋をのべると。「王の子として生まれたが「父親を殺し母を犯す」と不吉な予言が宣じられたから山に捨てられ、羊飼いに育てられる。成人し旅に出てどちらが道を譲るかで諍いを起こし、男を殺す。スフィンクスの謎を解いて未亡人の王妃を娶る。道で殺した男が父親の王、妻王妃とは実の母だった。自ら眼を潰し諸国をさまよう」
フロイトらは母への願望が「深層心理」とし、あらゆる男はそれを抱くとした。
Wikipedia で調べると「フロイトが提示した概念である。幼年期に生じ始める無意識な葛藤として提示された….子供は母親を手に入れ、父親のような位置に付こうとする。男児においては母親が異性であり、ゆえに愛情対象である。子供は父親のような男性になろうとして強くなろうとする。子供はじきに父親を排除したいと思う」
しかし、
続く文ではそれをレヴィストロースが否定する、
<Il ne’est pas certain non plus que l’habitude soit toujours considere comme devant etre fatale au mariage. この慣習(近親婚)は、かつて考えられていたようにこうした婚姻の結末が破滅(エディプス神話の例=前述)につながるなどとは(族民は)判断していない。
<Beaucoup de societes en jugent autrement>多くの部族社会は(近親婚をおおらかに)その逆として捉えている。
人類学的視点からレヴィストロースは心理学説へ反論する。例証として取り上げるのはイトコ婚の実践例である。これに対してフロイトらの母親願望コンプレックスをイトコ婚で否定するのは近親姦淫の次元が異なる、こんな反論が出そうだ。その回答として「エディプスコンプレックスにしても近親婚願望の一形態であり、それをことさらフロイトらが喧伝しただけである。総体として近親婚を捉え、説明付けする事が(人類学)としては重要だ」と答えそうだ(ここは部族民蕃神の解釈)。
族民の風習をまじえて心理学手法との違いを明らかにする狙いである。アフリカ中央部に居住するAzende族<L’envie de femme commence a sa soeur>女性への関心ごとは姉妹から始まる(以上の引用は本書20頁)
Hethe族(居住地不明)婚姻習俗を引用する。
<Les Hethe justifient leur pratique du mariage entre cousins croises par la longue initimite qui regne les futures conjoints, vraie cause - selon eux – de l’attraction sentimentales et sexuelle>(同)
Hethe族は彼らが実践している交差イトコ婚について、「情緒と性的関心を増長するため幼少からの同居させるなど準備期間を設け、この制度を正統化している」。
人目を避けるために揃って外出するなども多めに見られ、時が来れば二人だけのバンド生活に入って独立する。なにやらアダムとイブを思い起こさせる流れです。
ここでのHavelock Ellisらの「隔離されていたから異性として認識する」説の否定するとあわせて、フロイトらの「深層心理」も否定しています。なぜならば近親婚を認める、否定するとは社会制度であるとしているから。この実例を挙げているから。
<Mais il y a une confusion infinitivement plus grave. Si l’horreur de l’inceste resultait de tendances physiologiques ou psychologiques congenitales, pourquoi s’exprimerait-elle sous la forme d’une interdiction a la fois si solennele et si essetielle qu’on la retrouve dans toutes les societes humaines>
訳:よりとてつもなく深刻な混乱がここに見られる。もし近親婚への怖れが生来からの(自然からの)肉体的、そして心理的事由から発生しているとすれば、これほどにも厳格かつ根源的な禁止が、どの人間社会でも認められる理由に説明が付かない。
この理由をレヴィストロースは仮定として自ら用意している。それには2の言い訳があって、
1 近親婚とは自然の規定をはみ出す「例外」であるから罰せられる。(des exceptions ou la nature faut a sa mission)
2 このはみ出し行為が社会に悪影響を与えるから。
1については例外なる数量を起因として「罰」という性質を決定するには無理があるとしている。例外が少ないから罰が重いのか、それとも反対に多いから罰を重くしているのか。こうした数を質に替える作業は無い。よって2の社会への影響を重視しなければならない。
<Que ce danger exsiste pour le groupe, les individus interesses ou leur descendance , c’est en lui qu’il faut chercher l’origine de la prohibition.(21頁)訳:この危険性が集団に、関与した個人とそれらの子孫に存在するとして、禁止の起源はこの危険だとして、これを解明しなければならない。(2021年2月10日)親族の基本構造9心理からの説明 中の了 親族の基本構造4 心理からの説明の上 の了 親族の基本構造5に続く |
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