部族民通信ホームページ   投稿2023é年10月15日  開設元年6月10日
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構造人類学5 出来事の由来Origine d’événement Nambikwara族長の災難  
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ブラジル・マトグロッソ(州名)に住むNambikwara族。悲しき熱帯 « Tristes Tropiques » で彼らの生活、雨季には定住、乾季は移動(nomade)の様は詳しく描写されている。とあるバンド(=移動、採取狩猟で生活する20~30人ほどの集団)、族長は40歳代半ばとみられ、体躯強壮にして心情は快活そのもの。彼のある夜の不可解な出来事が報告されている(1936年、レヴィストロースが同族を訪れた際の実地譚)。

仲間同士で狩りに出て彼は一人離れての行動を取った。夜になって彼だけが露営地に戻らない。

 « Un soir, pourtant, il ne reparut pas au campement à l’heure habituelle. La nuit tomba ; les indigènes ne dissimulaient pas leur inquiétude. Nombreux sont les périls de la brousse : rivières torrentueuses d’un grand animal sauvage : jaguar ou fourmilier ou celui, plus immédiatement présent à l’esprit nambikwara qu’un Esprit malfaisant… » (186)

その夜、時間になっても彼は戻らなかった。夜は更ける、人々は不安を隠せなかった。(夜の)森には様々な危険が待ち受ける。川の流れの逆巻き荒れ、ジャガー、アリクイなど大型動物との突然の遭遇。Nambikwaraの信心では悪霊(Charia)との出会いはなお危ない。

« Nous apercevions tous les soirs, depuis une semaine, des feux de campement mystérieux qui tantôt s’éloignaient et tantôt se rapprochaient des nôtres. Or toute bande inconnue est potentiellement hostile »

1週ほど前から夜毎、露営の火が遠く山間に不気味にちらついていた。ときに離れまた近づく。見知らぬ部族は常に敵となりうる(同)。

Nambikwara族、乾季にはバンドを組み 移動生活に入る。移動道のり露営地の選定は族長が決める。他バンドとも「情報を交換し合って行程が重ならず離反せず」などを調整する―悲しき熱帯の記述。露営の火が望める近さなら挨拶があって然るべき。連絡を見せないは他の部族か。見知らぬは常に敵意の現れ)

« Nous décidâmes de partir en reconnaissance avec quelques indigènes qui avaient conservé un calme relatif. Nous n’avions pas fait deux cents mètres que nous trébuchions sur une forme immobile ; c’était notre homme, accroupi, grelottant dans le froid nocturne, privé de sa ceinture, colliers et bracelets »

我々は幾人かの族民とともに捜査に出ると決めた。彼らは森の夜を前に押し黙ったままだった。幾百メートルを進んだところで何物か、動かない物体に足を取られた。それが探している者だった。伏せたまま夜の寒さに震えていた、腰帯も腕輪も剥ぎ取られていた(186)

幸いに重度の打撲もなく、担ぎ上げて露営地にまで運び込んだ。族民皆の、何事が起こったのか、たっての頼みで « Enfin on peut lui arracher, bribe par bribe,  les détails de son histoire » ポツリポツリながらも彼から委細を聞き出せた。  « Un oragele premier de la saisonavait éclaté dans l’après-midi, et le tonnerre l’avait emporté à plusieurs kilomètres » 「嵐に遭遇し巻き上げられ、一旦はかなり遠方(rio Ananaz河畔)に落地し、その後に露営地近く(発見された場)に戻された」。

この年で初めての嵐がその日午後に一帯を襲った。一時の失踪と発見された彼の状況、そして午後の嵐の関連に辻褄を合わせ、これで納得して皆は « Tout le monde fut se coucher en comprenant l’évènement » 寝に入った。

 « A quelques jours de là cependant, une autre version de ces prodigieux événements commença d’être colportée par certain indigènes.  ---- Voici ce qui se disait de bouche à oreille… »

幾日かが経過、しかしながら族長の、神がかりとしか説明できない災難に別の筋立てが露営地に広まった。口から耳へと囁かれる中身は―

« Le sorcier, celui-ci, empiétant sur les attributions de son collègue le chef politique, avait voulu prendre contact avec ses anciens compatriotes, pour solliciter un retour au bercail, ou encore pour les rassurer sur les dispositions de ceux-ci à leur égard ; quoi qu’il en soit, il avait eu besoin d’un prétexte pour s’absenter, et l’enlèvement par le tonnerre, avec la mise en scène subséquente, avait été inventés dans ce but » ()

魔術師。彼は、かねがね族長の特権を縮小させむと腐心していた。かつての知り合い仲間に連絡を取って、古巣に戻るか彼らをして今の族民を取り仕切るかを謀るか、願いがいかなるにしても彼は露営地を離れ(不気味な火影の元の地に)赴く要があり、嵐を起こした。ついでに族長を巻き込んだ寸劇を演出したのだ――との噂が広まった。

この前節に当Nambikwaraバンドの生い立ちが紹介されている。もともと自立していた集団に、疫病で構成が減少し自立バンドを組めなくなった別の集団が吸収された。合併はそれほどの過去ではない。両者間での子息子女の婚姻はまだ一例も成立していない、同じ言語(Ge語族の一流のNambikwara語)ながら方言の隔たりが強いをレヴィストロースが観察している。

吸収したバンドが族長、政治的社会的指導者、を立て、吸収された側は祭儀を執り仕切る魔術師 « sorcier » を出している。族長は快活強靭と前述したが、これら資質は乾季の移動生活(狩猟を兼ねた行程の選択、そして採取の露営の立地を誤れば飢餓に直結)の牽引役として不可欠であり、適任ぶりが窺える描写も加わる(悲しき熱帯から)。人望も厚かったであろう。

« Il n’avait pas volé sur les ailes du tonnerre jusqu’au rio Ananaz, et tout n’était que mise en scène. Mais ces choses auraient pu se produire, elles s’étaient effectivement produites dans d’autres circonstances, elles appartenaient au domaine d’expérience »

彼が嵐に巻き込まれAnanaz河に飛んでいった訳では無い。そのような情景が浮かんだだけであろう。しかしその出来事(choses=モノ)はあり得たかも知れない、それは(聞き知った)他の環境にも起こり得たのだろう。そんな経験を過去に持ったであろうから(そうした事も起こるだろうと思いこむのだ 。同)。

« Qu’un sorcier entretienne des relations intimes avec les forces surnaturelles, c’est là une certitude ; que, dans tel cas particulier, il ait prétexté son pouvoir pour dissimuler une activité profane, c’est le domaine de la conjecture et l’occasion d’appliquer la critique historique »

魔術師なるは超自然の力と緊密に連絡を取る、そこから以下の事情が確実と受け止められる ; こうした特定の事情のなかで、魔術師は世俗目的を隠蔽し、その力を弄んだ。最もこれらは推察の範囲であり、そして発生した事象の解釈を広めるところでもある。(188頁)

出来事に2の解釈が導入された。それらは;

族長自身がトツトツと仲間に打ち明けた中身、自然の動きを説明した。脚色のない筋道だが納得しない族民も多い。密かに囁かれた噂は「魔術師が嵐を起こし族長を巻き込んだ」。2説をまとめると:

1      族長自身の説明、嵐に巻き込まれた(自然)

2      後の解釈、魔術師が嵐を引き起こした(超自然)

超自然を説明する ; 

山間に見え露営の火の主は魔術師がかつて親交していた部族。魔術師は嵐を引き起こし風に乗って、そこRio Ananazまで飛んで行った。出向いた理由はその部族と交渉するため。族長を拐った訳は、災難を演出して彼の人望を失墜させる目論見。己にしてもNambikwara 露営地に帰らなければ怪しまれるから、族長を抱えて戻って手前で落とした。この長い空中道のりで族長は衣服をすっかり剥ぎ取られ、見るも恥ずかしく放置された。

Nambikwara族、彼らの着衣は腰帯と腕輪のみ、究極の軽装ながらこの端切れを着しなければ全裸とみなされる)

次の一文 « On eut beaucoup étonné les sceptiques en invoquant une supercherie si vraisemblable, et dont ils analysaient les mobiles avec beaucoup de finesse psychologique et de sens politique en cause la bonne foi et l’efficacité de leur sorcier » 訳:人(族民)は、そんな話あるものかと疑う人たち(レヴィストロースと一行)に、この作り話がいかにも起こりうると湧き立て、それらの「動機les mobiles」には心理学的、政治的入念さを散りばめて魔術師の確信と効果を織り込んだ(188頁)。

魔術師の策略が成功したかについての記述はない。レヴィストロース一行はこの出来事から時を置かずに出立している。 « C’étaient naturellement les indigènes de l’autre group, qui répandaient cette interprétation, à laquelle ils ajoutaient secrètement foi, et qui les remplissait d’inquiétude. Mais jamais la version officielle de l’événement ne fut publiquement discutée » この解釈を広めたのは(魔術師の肩をもつ)側の族民であるとは自然に理解できる。彼らはここを信じ込んでいるし、そこに危惧を染み込ませてもいる。公式見解が公開されることはなかった(186頁)。12か、出身成分の党派を分かち、族民の口から耳へ « de bouche à oreille » 囁かれるのみだった。

この出来事は自然からと超自然の観点からの説明に分けられる(=前述)。そして自然の説明には重大な欠陥が浮かび上がる。なぜ彼だけが嵐に巻き込まれたのか、この年の初めての嵐、いかにも彼を狙い撃ちにしたかの疑念に応えていない。

さらには夜な夜な垣間見える不気味な火影が説明されていない。特定環境の下での特異な出来事 « dans ce cas particulier » の特殊性 « particularité »  を説明していないのである。

「野生の思考La pensée sauvage」でレヴィストロースは、先住民の出来事に対する姿勢は、個別事象を必ず宇宙の森羅と紐付けると説明している。特異を一般と絡み合わせて、なぜその災厄が彼被害者を襲ったのか、それを超自然に結びつけて説明する。すると超自然からの解釈が先住民には一般的か。以下に本書と「野生の‥」を重ね合わせての「出来事の由来」 ;

一つの事象を理解するに、取り巻く森羅との関連に、必ずヒトは知恵を巡らす。出来事の特異に目を向け、その特定時間と空間で「なぜ」それが発生したかに推理を働かせる。これは自然からの説明が出来事を経緯、顛末の流れに孤立させているに対抗し、より広く深く、森羅の懐の中に特異を位置づけている。この思考方法は即物因果の特徴を持つが(=具体科学、未開社会の思考方法)、コペルニクスが切り開いた近代思考(属性分解する)とは大いに異なる。

ただし出来事をより大きな流れの中に位置させる思考では同様、すなわち思考の根源では先住民も近代科学も同根といえる。

当夜、族長は淡々と出来事を語った。現れる因子は嵐、突風、巻き込まれ、遠くに飛ばされ、露営地に戻った。事象と自然の関わりについての一般的かつ科学観察と言えよう。しかし<なぜ彼が一人のときに嵐が発生したのか、それもこの年の初めての嵐、いかにも彼を狙い撃ちにした>に応えていない=前述。言うなれば森羅、宇宙との繋がりがその自然からの説明に見当たらない。「魔術師が嵐を起こした」はその欠陥を補正する説明である。

 













Nambikwara族の居住小屋、移動時期
で簡素
   

レヴィストロースによればヒトは両の説を受け入れている。いずれかを選択するかはヒトのその時の判断に関わるとしている。その一文 ;

« Le point important est que les deux éventualités ne sont pas mutuellement exclusives, pas plus ne le sont, pour nous, l’interprétation de la guerre comme le dernier sursaut de l’indépendance nationale, ou comme le résultat des machinations des marchands canons. Les deux explications sont logiquement incompatibles, mais nous admettons que l’une ou l’autre puisse être vraie, selon le cas ; comme elles sont également plausibles, nous passons aisément de l’une à l’autre, elles peuvent obscurément coexister dans la conscience »

これら2の蓋然性は相互に排他的とならない。戦争勃発の理由を推測する作業に例えれば、国家独立のための最後の手段とする見方があり、もう一方で大砲商人の策動とする見方も出てくる。私たちはその両者も正しいと受け止めているし、両方とも有り得るのだから一方からもう一方へ、いとも簡単に移り替わってしまう。2の見方は意識の中で共存している(201頁)。

戦争勃発の理由に故国の独立維持という特異と、資本家の利潤追求なる一般性(グローバリズム)を対比させている。その両者が排他的相手を退けていると人々は考えていない。なぜ戦争かの質問の回答は « équivoque » なのである。答えは一つではない。いずれに重きを置くかは状況判断である。

« A la différence de l’explication scientifique, il ne s’agit donc pas de rattacher des états confus et inorganisés, émotions ou représentations, à une cause objective, mais de les articuler sous forme de totalité ou de système, le système valant précisément dans la mesure où il permet la précipitation, ou la coalescence, de ces états diffus ; et ce dernier phénomène est attesté à la conscience par une expérience originale, qui ne peut être saisie du dehors » (page 201)

科学的説明と異なり(magie魔術に於いては)統制の取れない混乱している状態、感情あるいは頭の中の想像などを、目の前にある事由、原因に取り込む事などはない。それら混乱事情を接合し、全体に形成する、あるいは体系化を図る。正確を期してここで申すのだが、この体系は拡散した状態が凝集しせわしなく沈下していく、あるいは融合する、そうした収斂の中でこそ真価を発揮する。後者の融合については、自身独自の体験を経てのみ意識に取り込める、外側からの感知はありえない。

Nambikwara族長の災難 了 (2023年9月30日)










 
Nambikwara族の少女
頭に乗るペットの子猿をレヴィストロースが譲り受けた。現地調査の期間中、足元にしがみついて難儀したと言わしめた。
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