男の自分生まれはギリシャ神話そしてプエブロ族伝承の「男の土生まれ」から引き継いでいる。女の股から生まれるのは事実、しかし宇宙論は土に生まれて土に消える、これが男と教える。
 部族民通信ホームページ 投稿 令和7年3月30日  発足開設元年6月10日
 
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   子は親を選べない、だから自分を選ぶ。出生コホート考   
   子は親を選べない、だから自分を選ぶ。出生コホート考 1

(ノンブル日付はGooBlog投稿を踏襲)

202531日)コホートと呼ばれる調査手法をご存じと思います。この語が投稿基点なので説明をいれると、ある特定の要素を共通項に設定し、該当する多数を一集団にまとめ各個人の生活、健康、行動などを調査する。すると集団が抱える傾向が、この要素との関連で分かってくる。例えば喫煙する人をまとめ、健康を調査すると、がんとの因果が明瞭に見えてくる(このコホート調査は1950年英国に遡る)。肥満と糖尿病についても幾つかの医学コホートで密接な関連が判明している。

「出生」コホートなる分野がある。特定の年、週を選び、その期間に「出生」した(原則全員の)子の生を追いかける。英国が先鞭をつけ、後に欧州各国、アメリカ調査にも普及した。回数(英国では10年置いて5回、7万人を巻き込む)、規模の大きさでは英国が抜きんでている。嚆矢は1946年、3月の第一週に英国(正しくはUK)で生まれた子、全員を集団にくくった、出生時期を共通要素にした。

対象者は17千人あまり。生まれたときの家庭環境、自宅出産か病院から、難産だったかなど調査項目から始まり、年を経ても実施され(スウィープ整理と呼ばれる)、成長しての学業(11歳の全国選抜試験が重要)、就業、結婚などを追いかける。今、彼らは78歳を迎えている。幾割かは疾病に悩み、死亡に至ったかと。その原因、死亡時の環境なども調査されている。存命の方も含め、人生の一巡りを調査されていた訳です。

さて雑学(金にならない知識)で、わずかな蓄積を持つと自認する投稿子(部族民渡来部)は、20251月まで「出生コホート」の存在を、実は知らなかった。無知を一旦は反省したが、恥じ入ることはなかった。ネイチャーのエディターにして新鋭サイエンスライターのヘレン・ピアソン女史(英国)も2010年まで、64年前から、自国で、これほどの規模で、展開されている調査、研究の存在を知らなかったと告白している(ライフ・プロジェクト、同女史著大田訳、みすず書房2017年刊。以下「コホート」引用は同書から)。広範に知らされない理由は調査者側(予算をつけた為政者)に、調査結果に認められる不都合が拡散されては困るーに尽きる。著者は英国人なので、その不都合、英国の社会病理、を詳らかにしてないが、外部(日本人)ならば立ち所、見当がつく。それは後述するとして、膨大な調査結果の中から、本投稿の表題に沿う一点だけを紹介する。

その一点は表題「子は親を選べない」(ピアソン女史の言、本書から)。

本書 222頁に掲載されている、一般的にファインスタイン・グラフを簡略化した自筆写しです(頁のグラフのデジカメを投稿に利用するのは著作権に触れると判断した。この稚拙落書きなら、みすず書房さんの許諾を得られるかと勝手解釈。整った原図を見たい方は「ライフ・プロジェクト」を買ってください。「知識の地平を広げる」秀逸本です、ちょっと高いけど)。

図の読み方は ;

縦軸は学業成績、上は優秀下が凡庸。横軸は調査対象者(出生コホート)の月齢。幼児期(月齢22)の知能検査に始まり、11歳の学業成績まで記録される。ファインスタインは対象者を4分類した。幼児期に優秀な知能を見せた1中流家庭出身(上の青線) 2労働者家庭出身(赤線、右上に始まり左下に落ちる) 3中流家庭出身(赤線、左下に始まり右に上がる) 4労働者家庭出身(青線、下位に低迷)。

メッセージは ; 多くの子は高い知能であれば学業も優秀。低い知能は学業も低迷のまま(上の青線1と下の4)。2の例外が見受けられる。中流家庭趣出身の凡庸幼児は学年が進むにつれ、学業が上がる(3の赤線)、労働者家庭出身の優秀な子は学年が上がると成績は下る(赤線2)。「本グラフは学術誌に発表され、広く周知されることとなった、世界中の講演で話題になった」(224頁)

人は親を選べない、だから自分を選ぶ。出生コホート考 1 の了(31日)





 
ライフプロジェクト、ピアソン著
邦訳版はみすず書房













ファインスタイン・グラフ
クッリクして大判手書き
(デジカメ図は載せません)
   子は親を選べない、だから自分を選ぶ。出生コホート考 2

20253月3日)英国のコホート調査を前回に続いて紹介します。本書(ライフ・プロジェクト、ピアソン著大田訳、みすず書房)中のファインスタイン・グラフの手書き写し図1は逆転の状況=前回説明。図2はその伝えかけ。内容は字義の通りで1は;多くの子は小学低学年での学業位置を高学年に向けて水平に維持する。優秀な子は優秀なまま、低迷する子は高学年にも成績はわるい(水平線)。2しかし2の例外があった、優秀な労働者家庭の子は11歳を前に、低迷だった中流家庭の子に逆転される(下向きと上向き曲線)

11歳に何が待ち構えるか。英国一斉の選抜試験(イレブンプラス、GCSE)。合格者は一般の中高校(グラマースクール)に進学できる。高等教育(大学)につながる道が開ける。不合格者は職業訓練学校に進学する。前者は専門知識、資格に結びつく教育を受けられる。片方にはその機会は閉ざされ、肉体労働的仕事に就業する、その待遇に甘んじる生活を選ぶ。11歳にして人生の可能性の上層下層が振り分けられてしまう。

(本書で仕入れた挿話。ジョン・レノン(ビートルズ)は労働者家庭の子ながら11歳試験に合格した。祖母は大喜びして青いラーレー自転車をプレゼントした。グラマースクールに入学するも、法律を学んで弁護士になるとかには関心が薄れ、音楽を選び才能が開花した)

一図の逆転に戻ろう。

著者は親の関与の差が逆転に現れた結果と分析している。中流階層の家庭では親も中流の職場勤め。中の上となると医師、弁護士、経営者など資格者、財産家。子には、自身が確立した業職に踏みとどまれる教育を切望する。勉強する環境、自室、机を揃え、更に塾に通わせる家庭教師を当てる(こうした資料、例えば親の職業、家の間取り、自室はあるかなどは調査の原簿に揃っている。それらの項目から出自階層を想定し学業を経年で結びつける。出生コホートの強みです)。

他方、労働者階層では親は子の教育に無関心。自室、机などもあてがわれていない。金のかかる塾に通うことなど考えられない。我が子に学問を全うしないと出世できないーと絶対に言わない(らしい)。子も学業への関心が薄れ、11歳を迎える頃には選抜合格の水準には達しない(ようだ)。

父親は稼いだ金を一日一本のウィスキーに無駄遣いし、酔っ払っては無意味説教に時間を費やし、スティーブ・クリスマス(コホート対象子)など兄弟を深夜まで眠らせない。11歳になってテストを受けたとき「自分がなぜそのテストを受けているのか分かっていなかった」答案紙を白紙で出した(78頁)。

著者はこの逆転の舞台裏を一言で論評している「子は親を選べない」(本書から)。

選抜試験の制度と階層によっての取り組みの差、さらに図1の逆転を併せ読むと、弁護士の子は弁護士に、医師の子は医師を継ぐ。労働者の親に当たってしまった子は労働者になるしかない、蛙の子は蛙。

こんな社会が浮かび上がるのだが、それが階層社会とされる英国の姿であろう。「ブランデン=コホート分析者=が見つけたのは社会流動性の悪化である。1970年生まれの子の収入は、58年生まれの子以上に、親の所得と強く結びついていた。イギリス国民は生まれたときの経済状況に縛られている。229頁」

出生コホートについて著者にしても長くこれを知らず、一般に膾炙されていなかった背景は英国社会の閉鎖性、階層分断の病理があからさまになっている、その事態が突きつけられるとしたらの為政者の怖れ、体制側の自己防御が働いていたのかもしれない。

蛙の子が終わりではない。トンビがタカを生む例だってあるのさ。それこそ投稿題名の後半「だから自分を選んだ」。階層を上げて新たな人生を展開する人々も報告される、

前出のクリスマスはコホートの再調査(スィープ)に25歳の状況を以下に綴っている。「姓名をマーク・スティーブンに変えた。結婚して4人の子を設けた、職業は巡査部長で仕事は辛い、銃に打たれる危険だって抱えている。寝室6、キッチンと風呂、トイレ付きの家に住む」

呑んだくれの父の醜態は継がず公職にありつき、家族を養い寝室6の家構えは、実家での生活よりも上昇している。階層上昇に成功した道のりは語られていない、改名した経緯と関連があるかもしれない

もう一例、「落伍者」とレッテルを貼られた11歳がいかにして「自分を選んだ」かが語られる。

チータムの生活環境が語られる。長屋住まい、トイレは掘っ立て小屋。父親は線路保全、母親は紡績職工、「労働者階級」の典型、さらに幼くして父を亡くし「生まれながらの落伍」と揶揄される境遇だった。

「彼は頭が良かったがそれだけでは11歳テストをくぐり抜けられなかった。しかし不断の野心で逆境に打ち勝てると信じた。訓練校からモダンスクールに転校し(ここで親戚から援助があった)製図の技を磨いた。奨学金を勝ち取り上級学校に進み、航空機設計、情報産業などに従事した」「労働者階級生まれの不利を克服した」(94頁)保全工員の父の境遇から抜け出すのを目指し、社会的に中流と分類される専門技術職にチータムは就業できた。本書ではこうした成果の83の例が記録されるとしている、母数は46年コホートの17千人。

子は親を選べない、だから自分を選ぶ。出生コホート考 2 了 (33日)

本書の評価を「知識の地平を広げる」としたが、故小柴昌俊博士(ニュートリノ天文学創始、ノーベル賞受賞)の名言(読売新聞時代の証言、ニュートリノは何の役に立つかの質問の答え)のパクリです。









 
   

は親を選べない、だから自分を選ぶ。後ろ向きの選択 3

(2025年3月17日)313日(当ブログ)にて英国(連合王国全域)で実施された出生コホートの追跡調査の結果を引用して、「生まれながらの落伍者、下層階級出身=本書から」が人生の節目と境目で前向き選択に挑戦し、より良い境遇を勝ち取った2名(労働者階層出身が、航空機など専門技術職を得て、家庭環境も改善され中流階層に仲間入りした)を挙げた。

(この仲間入りがなぜ難しいか。英国は国民を出身する階級で各種差別を設けている。11歳の全国選抜試験イレブンプラスに合格しないと、その後、中高等教育の路が閉ざされるなどが差別制度。下層階級が子を11歳までに優秀成績に仕立てる、中上流階層子弟との競合に勝つは難しい。差別は冷酷で、下層階級を抜け出し高級な職位に就業し、高給を得るはほぼ不可能とされる。今でも階層差別は残り、さらに厳畯になっている。コホートの調査結果=本書から)

陽が注げば陰は刻まれる、邦国からNの例を挙げる。

4人を殺害し、未成年ながら死刑判決を受け執行された。当時にも実名は公開報道されていたから、名を記憶する方も多いと思う。生きざまを実名とともに暴きたてるを本稿は目的とはしない。Nと記す。以下に挙げる内容は「N (実名)封印された鑑定書」堀川恵子著岩波から引用した。

彼の人となり;父親な農業技師、博打にのめり込み家族を養うことはなかった。母親は行商の稼ぎで兄弟姉妹六人を育てたのだが、家庭は極貧環境だった。Nは中学に入って不登校となった。出席日数は足りなかったが、「認定卒業」で放校となった。東京で職に就く兄を頼りに上京、兄のアパートに転がり込む。しかし新婚夫婦の一間住まいに彼の居場所はない。

フルーツパーラー下働きを見つけ住み込みで働く。それもつかの間、一月経ったら逃げ出した。肉屋勤務、主人の目を盗んでレジの金を鷲づかみで逃走。兄の出番が3度目、板金工場で数か月頑張った、ボーナスが他工員よりも少なかった。嫌気がさして勤務放棄、逐電した。

節目と申したが、最初の節目はパーラー住み込み。兄の知人のつてでその職を与えられた。どの程度の待遇かは書に記述はないが、食う食事、寝る場所、休店の外出に映画を見る程度の小遣いは貰えたと推察はする。それを己の生活圏として、苦労は溜まるが責任を全うする。こうした慎ましやかな幾年かの辛抱で、社会のどこに己は座るか座れるか、自分の立ち位置が確立できる。これは前向き選択であり、少年多くがこの範囲を受け入れる。そして陰の選択はその生活姿勢を否定する、職から逃げ出す。Nは後者を選択した。

肉屋で現金鷲掴みは、言い方は良くないが素直な思い切った選択だ。肉屋では客とレジが近い、金の出し入れを目の間にしていたのだろう。そこで幾年かを下働きで過ごす生活は採らず、目の前にある金を、浪費するために、Nは選んだ。またも兄に泣きこんで現金と隔離する鉄工所の職を得た。ここでボーナスの軽重が気に食わず逃げ出した。この選択は常軌からずれている。職工の報酬は技能に比例する。金に値する腕前を体得し、質と応用力に応じて給与が払われる。ボーナスともなれば、経験技能者と見習工との差は当然、こう受け止めるのは少年にしても普通。だがNは先輩よりは低い査定に、不満をただただつのらせ逃げ出した。

これ以上兄には頼れず街を放浪に過ごし、横須賀基地に忍び込んで拳銃をせしめ、犯行に及んだ。

犯罪に走った理由を家庭環境に押し付ける見方もある。その見方は少年を犯罪現場(4の殺人)に向き合わせただけ、単断面図の観察である。上述した節目境目での選択行動を鑑みてようやく、少年が犯行に至った理由が精査できる。

投稿子(渡来部)は「自分を選んだ」と申したい。

Nの兄弟姉妹6人、精神を病んで施設に入った長姉を除いて、残る4人は生きる節目を厳しく迎えたろうが、前向きに選択した。兄弟4人は真っ当に家庭を持ち、家まで構えることができた(本書には具体的記述はないから、投稿子の推測)。育った家庭が貧困でも、社会に出て機会を貰い、選択を常に前向きに維持すれば今の日本、なんとか生き残れる。家庭環境に罪をなすりつける推測は係累者に、まして本人にも失礼と考える。

「貧しいから罪を犯す論理が正しいとしたら、このあたり(青森県の寒村)の子どもたちは皆、犯罪者に墜ちてしまう」(Nが通った、というか通わなかった中学校の担任、実名でこの本にて証言している)。

パーラーなどこれら後ろ向き選択の前にNは不登校という選択を自ら課した。不登校を心配した担任が家を訪ね、怒鳴り口調で登校を促した。Nは反抗するわけでなく、頷き聞いて翌日は登校するが、次の朝にはまたも不登校を選ぶ。中学生からNは自分を選んでいた。それも必ず刹那的、その後に跳ね返る何かを顧みることなく、後ろ向きの選択を続けた。なぜだろうか。

子は親を選べない、だから自分を選ぶ。後ろ向きの選択 3 (3月17日)了

 
   

子は親を選べない自分を選ぶ 4(最終) 生まれる前に自分を選ぶ

2025年3月21日)英国の出生コホートの調査結果と日本受刑者Nの例を挙げ、人生の境目で人はどのように運命を選択するか、その姿勢のカラクリを当ブログで紹介した(31日から主題1~3)。人は自分自身を選ぶ、これがブログの訴えかけです。(他者からみて)前向き、後ろ向きは織り交ざるけれど、その周回点での判断に必ず自分が構えている。これが「自分を選ぶ」所以です。別の言い方は「自己責任」、発動もその結末も、節目を越しての人生のあり方も、折り返しなしの「自己判断」です。

人生の節目としたけれど、人生を迎える生まれの前から実は、子は自分を選んでいる。出生前に選んだ自分は負い抱えては背肩に辛い。しかしこれが人生。故に人生の始まりは生まれる遥か前の、どこかの空に浮いていたあの自分が原点、表題の隠れ副題となります。

なぜ生まれの前から人生が始まるのか。部族民の妄想ではありません。立派な人類学者のご説を借りている(いつもの通りです)。

部族民は彼の著作「構造人類学Anthropologie Structurale」の紹介(Youtube、ホームページ20233月)でフロイトの「エディプスコンプレックス」についてのレヴィストロース解説を紹介した。またソフォクレスが謳ったエディプス神話と北米プエブロ族の天地創造神話の「構造的」つながりを明らかにした。

本書から読んで流してはまさに不運、そんな一文に行き当たった :  « Le mythe des d’Œdipe offre une sorte d'instrument logique qui permet de jeter un pont entre le problème initial, naît-on d'un seul ou bien deux ? Et le problème dérivé qu'on peut approximativement formuler : le même naît-il du même ou de l’autre ? Par ce moyen une corrélation se dégage : la sur-évaluation de la parenté de sang et à la sous-évaluation de celui-ci comme l'effort pour échapper à l’autochtonie est à impossibilité d'y réussir. » (Lévi-Strauss, Anthropologie Structurale, 構造人類学page239)

オイデプス神話は本章の当初からの問題へ解決の手段を与える。問題とは人は一人から生まれるのか、二人からなのか。これに問いかけが類似する別問題をも提起する。それとは人は己から生まれるのか、他者からか。考えを進めると、とある筋たてに沿い推理が走る。それは血族関係の濃密と疎遠の連関で、それらは(どちらも)人の大地生れを避ける手段とみなされるが、成功しない結末を迎える。

引用文のみでの理解し難い、前の文節内容を述べる。エディプス神話でのエディプス、父王ライオスその先代も、それら名の由来が「足の不自由」。それをして彼らが「土からの生まれ」を暗示する(これはレヴィストロース推測ではなく、古代ギリシャ神話研究デルクール女史(Marie Delcourt ベルギー1979年没)の見解です。レヴィストロースは土から生まれを「Autochtone土着民」で表す。本邦の言葉、産土ウブスナの意とも似通う)。神話はカドモス・エウロペ、アンチゴネの悲運を前後に謳う長編叙事と成すから、エディプス神話群と言える。それら挿話いずれもが「男の土生まれ、怪獣退治、近親姦(血族関係の濃密さ)」が語り筋の本流です。エディプスは怪獣退治(スフインクスの謎解き)を見事に遂げ、足の痛みも収まり、近親姦を避けるべく放浪する。テーバイに向かう路上諍いで父王ライオスと口論となって、馬車に追いかけられるも、父とは知らず太刀殺す挿話は怪獣退治の結末、足の完癒を語る。それが誘いの手順で、母との婚姻に陥る。

(新大陸北米プエブロ族の神話では人の土生まれ、怪獣退治、近親姦が同じく語られる。時と場の離れる2の神話の構造比較に行を割く)

レヴィストロースが提案するのは現実に対立する宇宙論。土生まれも怪獣退治も宇宙の世界。現実は父が母と交合し、子は母から生まれる。「一人からか二人から」かの出どころは、現実が全てなのかの疑問です。二人生れは確かな現実、しかし父とは単なるきっかけで、真実は一人、母から生まれる、これが宇宙論からの回答となります。はソフォクレス(エディプス神話作者)にこの対立が提起され、フロイト(精神分析)はエディプスコンプレックス、人の深層心理に宇宙論がうごめくと指摘した。そこに見えている現実を人は受け入れる、しかし人の心情は異なる。父と自称する見知らぬ男は不要、母をものにしたい。これが両者の言い分で、宇宙論の優位で重なる。

レヴィストロースは神話群のもう一つのテーマ「人の土生れ」を宇宙論に織り込む。エディプスが土から生まれたならば、一人から、母からの生まれでもない。我の生まれは我本人か赤の他人からかの問いとなる。 « le même naît-il du même ou de l’autre » がその意味です。文は « donc la cosmologie est vraie » (同)よって宇宙論が正しい。

子は己を選び土の中から這い出る、レヴィストロースの宇宙論です。

部族民は人の本人生まれに注目した。「子は生まれる前に自分を選ぶ」となる。母から生まれ落ち、家族とともに生き抜く行動は現実です。母の慈しみ父の加護がなければ子は生きられない。成長してその庇護から抜け出す。人生節目の選択で己を選ぶ。その子に浮かぶ心象は原本人なる己の姿だろう。英国出生コホートの調査結果とNの生き様を読みつつ、自分という自意識の奥底どこかに、生まれる前の「原自分」が棲んでいる。彼と俺がこの自分を作っている。母は生を与えてくれたきっかけ、愛おしい血族。でも父は全くの他人。そして節目では生まれの前の宇宙を振り返り、彼の選択、すなわち原自分を選ぶ。

その居場所が土中の底か天空の果か、まだ探せていない。しかしこの宇宙、どこかに赤子の予備兵がひしめいている。次は「僕が生まれる」と期待に胸をふくらませている。彼はいずれ生まれる。でも彼に君は親を選べないのだとは誰も教えない。

子は親を選べない自分を選ぶ 4(最終)了(321日)












構造人類学Anthropologie Structurale













 
フロイトのエディプスコンプレックスをレヴィストロース流に解析した図。男は自分から生まれる。クリック拡大