部族民通信ホームページ   開設元年6月10日 投稿2021年2月28日
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蕃神(ハカミ)義男
Les Structures Elémentaires de la Parenté親族の基本構造3  

2Le problème de l’inceste近親婚の問題

 
近親婚の禁止は人が自然状態の時期、レヴィストロースの云うところでは旧石器時代、にすでに実践されている。「どの民族も」その禁止(禁忌)を習俗として、汎人類的に広がってい」る理由付けになっている。後に文化が創生され社会、
制度、しきたり、が創生されて婚姻制度がうまれ、近親婚禁止を制度に組み込んだ。故に部族、民族によって「近親」の範囲が異なる。
 
2Le problème de l’inceste近親婚の問題

 レヴィストロース著「親族の基本構造」を続けます。1(前文)、2(自然と文化)でIntroductionの章を紹介、3回目は第2Le problème de l’inceste近親婚の問題

章頭の文は;

 « Le problème de la prohibition de l’inceste se présente à la réflexion avec toute l’ambiguïté qui, sur un plan différent, rend compte du caractère sacré de la prohibition elle-même. Cette règle, sociale par sa nature de règle et en même temps présociale à un double titre : d’abord, par son universalité, ensuite, par le type de relations auxquelles elle impose sa norme » (14頁)

訳:「近親婚の禁止」を解こうとするに, この問題は曖昧なまま立ち残る。別の取り組み方をすれば、禁止自体が神聖さ(sacré)を隠れ蓑としている故に、と見当がつく。この規則(règle)は、規則である故に社会的であり同時に前社会的(présociales)でもある。理由はこれを禁止するという規範は「汎人類」に認められる。この事実をして自然での発生である。さらには禁止が適応される(男女)近親の定義には部族、社会ごとの隔たりがある、故に社会(文化)でもあるといえる。

 « sacré » 神聖の語をここに用いる理由は、近親婚の禁止が自然に由来する、社会制度などのヒトが創生した制度とは一歩離れるーを示唆する。「présociale前社会的」も自然を意味する。一方「規則」は文化の制度である。

自然発生、社会介入の相反する性格が「近親婚」に認められるとの指摘、人が文化を獲得する以前にこの制度(しきたり、慣習)が運用されていて、族民が文化の獲得の後に、社会それぞれの決め事として制度を確立した。

 

これを前提に、

これまでの禁止の学説を3の典型(生物学、心理、歴史から説明する)に挙げて、いずれも反論を加える。「ある一つの別の取り組み方sur un plan différent」と謙遜しながらも、これが自身の主張で問題解決の切り札とほのめかす。

禁止とする(男女関係の)範囲は社会ごとに差が激しい。例を挙げると;イトコ婚に関して交叉いとこを推奨する民族が多いが、いとこは近親として婚姻を認めない社会も報告されている。多く社会で近すぎる血縁として禁止している姪と叔父、甥と叔母も認める社会もある。

 

 « Leurs tentatives peuvent se ramener à trois types principaux, que nous bornerons ici à caractériser et à discuter dans leurs traits essentiels » ()

彼ら(前文の過去の社会学者達を受ける)は3説に分けられる(trois types principaux)。3の説;

1      生物学 2 心理 3歴史の残滓

 

それぞれの紹介とレヴィストロースの批判に入る。

1;生物学観点。

この観点からの説明は比較的新しい。16世紀以前には誰も語っていなかったとの前置きのあと、Lewis Morgan (1818~81年アメリカ、白人至上主義、先住民は未開人説を展開) 生物学説の紹介に、

 « La prohibition de l’inceste serait une mesure de protection visant à mettre l’espèce à l’abri des résultat néfastes des mariages consanguins »15頁)

「近親婚...」は血族結婚を重ねる生じる不吉な(遺伝的)結末から種族を守るための手段であるかもしれない。Morgan自身、断定していない言い方は伺える。

多くの部族で近親婚の結末として「子が化け物(monstre)」を伝えている。しかしそれら先住民は近い血族(叔父と姪など、オーストラリア)でも「近親婚ではない」として婚姻が制度で許される。その結合(血の繋がりは濃くても制度は認める)による子は化け物にならない。

 « tels châtiments sont communément prévus par la tradition primitive pour tous ceux qui transgressent les règles et ne sont nullement réservés au domaine particulier de la reproduction » 15頁)このような懲罰(子が化け物)は多くは社会の「(いろいろな)規則破り」で出現する、近親婚での再生産を唯一の原因としていない。

 

基本構造1リンク
基本構造2
基本構造3
基本構造4
基本構造5
基本構造6
基本構造7


親族構造のプレゼン1(限定交換PDF)
アンドレヴェイユの数値による親族解析


ショートムービー(5分)

Youtube動画(10分)
Youtubeに入ってyrb_h8d5bjaで検索
   

JochelsonWaldemar1937年没シベリア民族の研究)の報告にある「Yakut族はいとこ婚で生まれた子は早死するし、子の両親も長生きはしない」伝承を取り上げ、こうした(先住民信心の)報告をどのように解釈したら良いかと自問する。そして答えは即座に出てくる。次の文節は;

 « Voilà pour les sanctions naturelles. Quant aux sanctions sociales, elles sont si peu fondées sur des conditions physiologiques que… » (16頁) ここなのです、これらは自然(生物学的)からの罰と語っている。社会からの制限に則らない場合であって、生物(生理)学の視点など持たない。

例証にボルネオ・Kenyah族の「近親婚...」の制度と罰則を取り上げる。

母、姉妹、娘...などとの婚姻を禁止し、さらに姻戚の母(=義母)などにも適用され、「これらの違反は罰則が更に重い」。義母、義姉妹、義娘(妻の連れ子)など(自身の)婚姻を通じて生じる定義が「親族」としている。「生物的つながり」の血族ではない。罰則をそこまで広げている背景には「遺伝的虚弱化」を警告していない。決まりとしての罰である。姻戚との婚の禁止はかく文化に由来する。

 

幾例かを引用した。

Yakut族など先住民の信心は畸形を生む原因が近親婚である、それ故に部族民は禁止としたとの説明に対してレヴィストロースの批判は;

「社会には規則がある、規則破りへの予告的戒め」をまず検討しなければ、こうした言い伝えの評価はできないと指摘する。

 

「近親婚」の生物学説への批判、別の観点から。

曰く:人はそもそも(新石器革命時期には)近親個体を掛け合わせて、優秀な子孫(栽培種、飼育種)を作っていたではないか。

 « On ne doit d’ailleurs pas perdre de vue que, depuis la fin du paléolithique, l’homme utilise des procédés de reproductions endogamiques qui ont amené les espèces cultivées ou domestiqués vers un degré croissant de perfection. Comment donc, à supposer que l’homme eut été conscient des résultats de telles méthodes et qu’il eut jugé, en la matière de façon rationnelle, expliquer qu’il ait abouti dans le domaine des relations humaines à des conclusions opposés à celles que son expérience… »16頁)

訳:しかしながら人たるは判断の基準点を失ってはならぬのだ!旧石器時代の終焉時期から人々は近親交配(reproductions endogamiques)の手法を用いて栽培種(小麦など)、飼育種(牛豚)の育成を手がけ、完璧なまでに育種の生産性水準を高めたではないか。その事実を持ってして、人間の遺伝分野(domaine des relations humaines)にのみ、それら結果とは真逆とも言える思考判断を、どのようにして人が取るのか。

レヴィストロースが得意とする「そもそも」論の神髄とも言える指摘です。

 

« Comprendre qu’il se soit arrêté à des interdictions, et n’ait point passé aux prescriptions, dont le résultat expérimental eut - au moins dans certains cas – montré les effets bénéfices ? (同)  

訳:もし原始的人類がこの秩序(近親婚による人遺伝の劣化)が厳然としてあると知りその禁止を計っていたとしたら、そして経験で知っていた良い結果をもたらした近親交配技法(栽培種など)の取り決めに踏み出さなかったとしたら(新石器革命は起こらなかった)

 « Les prescriptions positives que nous rencontrons le plus fréquemment dans les sociétés primitives sont celle des unions cousins croisés » ()

多くの未開社会で(近親婚を認めることに)肯定的な取り決めが報告されている。それは交差いとこ婚である。

一方(交叉いとこ婚)は推奨されもう一方(平行いとこ婚)は禁止される。この点をもってして「近親婚...」は生物学的配慮ではなく、社会の取り決め、すなわち文化の発生とする。

 
















 化け物伝説、ミノタウルス。王女と雄牛の交合から生まれた牛頭、人身体。クレタ島の迷宮神殿に住む。近親婚の子が化け物に生まれる言い伝えは各地に(ピカソ画、部分、ネット採取)。
   

続いて遺伝学の説明に入る。(部族民)はこの分野を理解する者ではない。しかし上記の「近親婚は遺伝劣化」をもたらすか?と絡むから、一句だけを引用し、つたない訳を貼り付ける。

 « Les mariages consanguins ne font qu’assortir des gènes du même type, alors qu’un système où l’union des sexes serait déterminée par la seule loi des probabilités (panmixie de Dahlberg) les mélangerait au hasard. Mais la nature des gènes et leurs caractéristiques individuelles restent les mêmes dans les deux cas. Il suffit que les unions consanguines s’interrompent pour que la composition générale de la population se rétablisse telle qu’on pouvait le prévoir sur une base de panmixie » (17)

訳:Dahlbergが言うところのpanmixie(配偶を任意に選ぶ)では両性の遺伝子(gènes)は偶然に依存して混ざり合う。一方で近い血縁の者同士の遺伝子は、同型の遺伝子の混ざり合いとなる。しかし、遺伝子の特性とその個人性を鑑みると、両者は同類とも言える。近親配偶での遺伝子混合が、母体人口がpanmixie(任意配偶が継続されて蓄積した遺伝子の組成)状態に近づけば同類であるから。

引用文の前に  « si l’humanité avait été endogame depuis l’origine » もし人間社会が発生期以来、族内婚を実行していた(のだから)としたらと記している。これはあり得る。

本書刊行の後、人類の祖先を遡る「出アフリカ」論が発表され、人類史の画期としてもてはやされた(ストリンガー、学説発表は1990年代、2001年に邦訳刊)。レヴィストロースが仮定として前置きした「族内婚の時代」はこの論でも取りざたされている。現在の旧世界民族は風貌、言語、社会など多様な民族の集体と思えるが、遺伝子的には大変、接近している。出アフリカ時期に人口の「瓶の首」に襲われ、数千人単位に縮小し、遺伝子の均一化が起こったと聞く。アフリカを除く人間の遺伝子の相違は、どれほど遠隔(たとえば東アジアと西ヨーロッパ)にあっても、アフリカで近接する部族間(出アフリカしていない)の差異よりも小さい)

この後hétérozygote, homozygote(異型結合、同型結合と訳すか?)なる専門用語を駆使し近親婚による遺伝劣化を否定するが、これら語は辞書にも出ていない。分からないから説明できない。(邦訳本では克明に解説を入れている。訳者福井和美氏の渾身作業が伺える)

 2章 Le problème de l’inceste近親婚の問題 了

 
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